***

事件から一週間、クラスで登校してこない奴がいた。
安藤和咲だ。
矢部が彼女を狙ってると知って、俺が欲しくなった女。しかも、どうやら板倉も彼女のことが好きらしかった。
しかしあの事件の後、俺はなぜか安藤和咲に対して、独占欲のようなものが消えてゆくのが分かった。まあ、所詮は歪んだ気持ちだったわけだ。
教室の奴らの中には彼女のことを気にかけているものもいた。でも、大半が普通に今まで通り生活を送っている。もうすぐ夏休みだし、一緒に花火大会にいく異性を誘い始める奴もいた。

そんな中、板倉が安藤を見舞いに行ったらしい。
矢部がそうけしかけたのだと、一部始終を見ていた山下が教えてくれた。
それに加え、なぜか岡田京子が、板倉と一緒に安藤の家に行ったことも知っている。
もし俺が、事件の当日に岡田京子と話をしていなければ、彼女の行動を不審に思っていただろう。
でも実際は違う。
俺は、彼女が板倉に気があるのだと見ていた。だからこそ、板倉と行動を共にしたんだと。
安藤宅から帰ってきた彼らは、今までと様子が違っていた。安藤は結局翌日も学校には来なかったけれど、どうやら時間の問題だということは、クラスの全員が感じ取っていた。
その代わりに、板倉と岡田が妙に互いを意識しているのが俺にはすぐに分かった。普段から板倉は矢部とつるむことが多いのだが、岡田と一緒にいることが増えたのだ。それは、本当に小さな変化で、クラスでは多分、俺や矢部しか気づいている人はいないだろう。矢部に話かける時の岡田は、以前よりもずっと楽しそうで、心なしか、見た目も綺麗になっているようだった。「可愛い女子ランキング」で彼女が最下位だったことが信じられないほどに。
俺は、板倉と話している時の彼女を見るのが癖になっていた。
彼女が頬を染め、嬉しそうに目を細めている。白い肌にさっとかかる黒髪が、無垢な彼女の心を思わせてとても惹かれた。

気が付くと俺は、彼女から目が離せなくなっていて。
一ヶ月後、夏休みが明けて板倉と一緒に彼女が登校してきたのを見て。
二人が付き合いだした事実を知ると同時に、心の底からカッと燃え上がる叫びが聞こえた気がした。