8月5日日曜日。
結局、京子を花火大会に誘うのはおろか、板倉を挑発するようなことを言ってしまい、この日の俺は終始ブルーな気分に浸っていた。
この地区で一番大きな花火大会は、19時に打ち上げが開始される予定。現在午後18時。今日はかなりの晴天だから、きっと中止になることもないだろう。遠くから、祭り囃子が聞こえる気がする。
「あーあ」
部屋のベッド上で、一日中寝そべって漫画を読んでいる。今更、LINEさえ繋がっていない彼女を誘い出すことなどできない。そもそも、俺にはそんな勇気がないのだ。分かってはいた。クラス中を巻き込んだいたずらならいくらでもやってやれるのに、自分の気持ちに向き合うということになれば、がんじがらめだ。
もう、どうにでもなれ、という気持ちで漫画をベッドの上に置いた。このまま眠りこけて、朝目が覚めたらこの気持ちがなくなっている。そんな夢のような幻想を抱いた。
ブルッ
不意に、枕元に置いてあったスマホを震えた。
「なんだ」
眠りにつこうと思いスイッチをOFFにしていた右腕を伸ばしスマホを手に取った。通知は、山下からのLINEだった。
『お前、今何してる?』
ふっ。あいつ、受験生のくせに暇なのかよ。
「漫画読んでる」
ピコン。即座に返信。
『なんだ、受験生のくせに暇だな。早く行こーぜ』
「行くって、どこに」
『花火大会に決まってんだろ』
「野郎二人でか?」
『そりゃもちろん。いいじゃないか、たまには』 
なにが「たまには」だ。この3年間、男友達としか花火大会に行ったことねーんだぞ。お前も一緒だろうが。というか、3組の高坂美久は誘わなかったのか。と聞きたかったが、ちょっとやめておく。
胸の内で悪態をつきながら、けれど彼の気ままな誘いにほっとしている自分がいる。
「分かったよ。30分後、会場な」
気がつけば彼の誘いに乗り気になってしまっていた。俺がそう返事をすると、彼からもすぐに一言。
『そうこなくっちゃ』