「慎太郎くんっ!!」

 はっ、と意識が戻ると、俺は駅の改札口近くにいた。

 視界も少しずつ元に戻ると、周りにいた人間は全員、俺に怪訝なものを見るような視線を向けていて、そこでようやく、俺は自分が膝をついてしまっていることに気が付いた。

「慎太郎くんっ!!」

「せん……ぱい……?」

 そして、紗季先輩がうずくまった俺の肩を支えるようにしてしゃがんでいた。

 いつものような余裕を見せる雰囲気はどこにもなく、俺が口を開くと同時に、心底安心したような顔を浮かべた。

「良かった……なんともないかい?」

「えっ……俺……どうしたんですか?」

「急に頭を抱えて倒れてしまったんだよ。慎太郎くん、こっちを見てくれ。いま私が指で示している数字を答えられるかい?」

 先輩は、三本の指を立てながら、俺にそう問いかけてきた。

「えっと……三……でいいんですよね?」

「うん。ちゃんと意識はあるようだね。ちなみに、持病を持っていたり、昔からこういうことが起きるということは?」

「……ない、はずです」

 混乱する俺とは対照的に、紗季先輩は冷静に俺の身体や意識に異常がないことを確認していて、その間に俺に集まっていた周りの人の注目も徐々に解けていく。

「すみません……心配をかけてしまって……」

 俺は、迷惑をかけてしまった先輩に頭を下げる。

 こんなこと今までなかったのに、一体、俺の身体に何が起きたというのだろうか?

「いいんだよ。きみに何もなくて本当によかった」

 先輩は、いつもの優しい口調で俺にそう告げる。

 その声が、不安を覚える俺の心を包み込んでくれるようで、少しだけ気持ちが楽になった。

「……ただ、今日は私に色々と付き合わせてしまったせいで、身体に疲労がたまってしまったんだろう」

 すまない、と、先輩は俺と顔を合わすことなく、そんな言葉を漏らした。

「……慎太郎くん。今日は帰ったらゆっくりするといい。それに、明日も無理をせず、図書委員の仕事は休んだほうがいいかもしれないね」

「そんな! 俺は……」

 俺は先輩の意見をすぐに否定した。もちろん、それは明日のこともあるけれど、意識が遠のいていく直前、確かに先輩は俺に「帰りたくない」と言ったのだ。

 あの言葉を聞いた瞬間、俺は何か見えない恐怖を確かに感じたのだ。

 だから、今ここで、俺は絶対に紗季先輩から、どうしてあんなことを言ったのか、聞かなくては……。