「うん、よろしい。それで、私に教えてほしいことがあるということだが、どういう用件なのかな?」
立ち上がって子供たちを見下ろすような形になった先輩が、俺に話しかけるときと同じような感じで、彼らにも質問を投げかける。
子供たちには些か難しい単語が混じっていたこともあって、戸惑いながらではあったものの、彼らは紗季先輩を見上げながらお願いを申し出た。
「あの! オレたちもお姉ちゃんみたいにゲーム上手くなりたいんだ! だから、弟子にしてください!」
「……弟子?」
「はいっ! お願いします! 師匠!!」
キラキラと、純粋な眼差しを向けてくる子供たち。
一方、先輩は珍しく焦った様子で俺を見る。
助けを求めているようだが、その様子が新鮮で俺から助け舟を出さずに、アイコンタクトで「先輩がなんとかしてください」と伝える。
そして、ちゃんと俺の意見が伝わったのかどうかはさておき、困った様子の先輩だったが、
「仕方ない……。そういうことなら、一緒に遊んでみるかい?」
最終的には子供たちと遊ぶことを選択したようで、弟子を志願した二人の子供も非常に嬉しそうにしていたのだった。
そんな訳で、俺は完全に除け者になってしまったのだが、子供たちと遊ぶ先輩の姿と言うのはなんとも貴重なものだったので、しっかりと目に焼き付けておくことにしよう。
「なんだか……私の今の状況をきみが一番楽しんでいるように見えるのだが……」
「いえいえ、そんなことないですよ」
勘のいい先輩には、すぐに俺の心情を読み取られてしまったけれど、子供たちに囲まれた先輩は、俺を言及する時間など与えてはもらえず、子供たちに引っ張られたまま、一緒にゲームに興じることになってしまった。
俺はそんな彼女の背中を見ながら、また新しい先輩の一面を知ることができて、なんだか心が穏やかになっていくようだった。
本当は昔の俺にも、紗季先輩のことを少しずつ知っていく時間があったのに、それを手放してしまっていたのだ。
それを取り戻すように、今こうして一緒にいることが、何よりの幸福であることを実感してしまう。
そして、知れば知るほど、失ってしまったものの大きさに気付かされる。
俺は、子供たちと話す紗季先輩を見ながら、ある言葉を口にした。
「……俺はもう、二度と紗季先輩を失ったりしませんからね」
だが、残念ながらその声は、紗季先輩が放った弾丸を喰らったゾンビの叫び声に消されてしまい、彼女の耳に届くことはなかった。