「……ん? 慎太郎くん。ここにはこんなに人が集まっていたかな?」

 だが、先輩はここでようやく自分の周りの状況が変化していることに気付いたようで、羨望の眼差しを向けてくる子供たちの様子に疑問を抱いているようだった。

 そして、ゲームが終わったことで、子供たちは世界を救った英雄との対面を我先にと押し寄せてくる。

「ねえねえ、どうやったらお姉ちゃんみたいに上手になるの!! このゲームすっげー難しいのに!!」

「馬鹿っ! オレが先に聞こうと思ってたのにずりーぞ!?」

「なんだよ!! 先に声かけたのはボクだぞ!?」

 先輩のゲームプレイを見てすっかりファンになってしまったのか、先輩に駆け寄ろうとする二人の男の子たちは、ちょっとトラブルになってしまっているみたいだった。

 子供の喧嘩とはいえ、このままではちょっと面倒くさいことになりそうだと思ったそのとき、紗季先輩は言い争いをしている二人のところでしゃがむと、同時に彼らの頭を撫で始めた。

「コラ、駄目だぞ、きみたち。喧嘩は良くないことだ」

 優しい口調ではあったものの、紗季先輩の雰囲気を察したのか、言い争いをしていた子供たちは大人しくなり、周りにいた子供たちからも喧騒が消えてしまう。

 だが、先輩は子供たちに対して優しい笑みを浮かべたのち、自分のほうへ抱きしめるようにして二人の子供を腕の中へと包み込んだ。

「いいかい? どんな些細なことでも、相手に嫌われてしまうというのはとても怖いことなんだ。だから、ちゃんと自分が悪いことを言ったと思ったら『ごめんなさい』を言える子になりなさい」

 そして、腕を解いた先輩は、また子供たちの頭を撫でながら彼らに眼差しを向ける。

「言葉は時に暴力にもなるけれど、人と人を繋ぐ大切な役割を果たすことだってある。だから……やることは私の口から言わなくても、わかるだろう?」

 その瞬間の先輩の様子は、慈愛に満ちた聖母のように、優しく、そして見ているこの場全員を温かい気持ちにさせるものだった。

 しばらくは呆然としていた子供たちだったけれど、最後はお互い向き合って頭を下げながら「ごめんなさい」と言った。

 それに満足したのか、紗季先輩も朗らかな笑みを浮かべる。