そこで、やっと先輩は一呼吸して、隣にいた俺に笑顔を向けてきた。

「なかなか楽しかったよ。しかし、二百円でこれほど楽しめるとは、ゲームとは凄いものだね」

「……いや、先輩が凄いんですよ。普通、一クレジットでクリアできるように設計されていませんし……ましてや初心者の人は尚更です」

「ん? そうなのかい?」

 不思議そうに、先ほどまで愛用していた銃を見つめている。

「まぁ、先輩が楽しかったのならよかったと思いますよ」

「ああ。そうだね」

 素直に感心する紗季先輩だったが、銃を元の場所に戻すときにぽつりと呟いた言葉を、僕は聞き逃さなかった。


「……現実も、こんな簡単だったらいいんだけどね」


 その瞬間、俺の身体に悪寒が走った。

 ゲームを終えた先輩の表情は、とても世界を救った英雄とは思えないほど、昏く陰鬱とした表情だった。