「なるほど、こういう感じか」

 紗季先輩は、満足そうに散っていくゾンビを見送った。

 そして、デモンストレーションも終わり、いよいよ本番が始まるのだが、先輩は微動だにせず次々とゾンビに弾丸をお見舞いして消滅させていく。

 その華麗なプレイスタイルは、さながら熟練者のような見事なものだった。横から見ても、まるでどこかのエージェントかと思わせるくらい銃を構えた立ち姿が凛々しく様になっている。

 むしろ、俺のほうが次々と現れるゾンビに苦戦して、最初のボスに到着するまでに体力が削られ瀕死状態になってしまう。

 そして、ボスの大型ゾンビが現れても、先輩は怯むことなく連続で銃弾を撃ち込み、あっさりと倒してしまった。

 そのころには、何人かの子供たちが俺たちの後ろに立って、目を輝かせながら先輩のことを見ていた。

 そして、情けないことに次のステージでゲームオーバーになってしまった俺とは違い、紗季先輩はどんどんとステージをクリアしていく。

 難易度が上がっていこうとも、そんなことはお構いなしにゾンビたちを殲滅する先輩のことを「この人、初心者ですよ」と暴露したところで、一体どれくらいの人が信じてくれるだろうか。

 今では後ろの子供たちから「お姉ちゃん、がんばれー」と声援が送られてくるほど現場は盛り上がっている。

 だが、先輩はそんな子供の声も届いていないのが、画面から出てくるゾンビたちと戦うことに全集中力を注いでいた。もしかしたら、俺がすでにゲームから離脱したことも気付いていないかもしれない。

 そして、ついに最終ステージへと到達し、紗季先輩はラスボスと対面する。
赤い月が空に浮かぶ不気味な不夜城を舞台に、二十メートルはあろうかという巨大なデーモンが、ただの人間である先輩を襲う。

 だが、そんな化物が相手だろうが、先輩はたった一丁の銃だけで立ち向かっていく。おそらく相手の弱点であろう部位を次々と破壊していき、最終的に崩れたデーモンの頭を狙って、一発の弾丸を撃ち込んだ。

 すると、デーモンは悲痛な叫びをあげながら、黒い炎に包まれ燃え尽きてしまった。

 その後、ゲームの背景では夜が明け、太陽の光で世界が包まれた映像が流されると同時に『GAME CLEAR!』と派手なフォントが表示され、エンドクレジットが流れ出した。