喫茶店では随分とゆっくりさせてもらったと思っていたのだが、スマホの時計を見ると、まだ時刻は三時を過ぎたくらいだった。
今から地元に帰るというのは少し早い気がするが、かといって、どこかに行く予定があるかと言われれば、素直に肯けないので判断が難しい。
そう思って、最初に来たときと同様、紗季先輩に「どこか行きたいところはないですか?」という質問をしてみた。
しかし、質問しておいてなんだが、先輩からどこかに行きたいと言われることは殆ど期待していなかった。
それは最初に、今日は俺と『デート』という体裁を取っており、エスコートも完全に俺に任せるという指令が先輩から下されていたからに他ならない。
だから、先輩が「どこでもいいよ」と言ったら、図書委員らしく近場の本屋さんにでも行こうと思ったのだが、先輩からは意外な返答が来たのだった。
「ゲームセンター」
「……はい?」
今、紗季先輩には似合わない言葉が出てきたような……。
「ゲームセンターというところに行ってみたいのだが、慎太郎くんは嫌いだったりするかい?」
いや、別に嫌いというわけじゃないんだけど、先輩らしくない場所の選定だと思ったので面食らってしまったというのが本音だ。
「先輩……そういうところ、好きなんですか?」
「いや、好きという話以前に、行ったことすらないよ」
それがどうかしたのかい? と言わんばかりに小首をかしげて問いかけてくる先輩。
その純粋な眼差しが、逆に俺がおかしなことを言っているんじゃないかと錯覚させる。
しかし、先輩も俺が疑問を抱いていることをなんとなく察したのか、口角を上げてゆっくりと答える。
「だからこそ、だね。やっていないことを経験するというのも人生では必要なことかと思ったんだ」
そんな大掛かりな話になっていたのか。
「もちろん、選択権は慎太郎くんに委ねるから断ってくれてもいいのだよ?」
ふふっ、と不敵な笑みを浮かべる先輩だったけれど、残念ながら俺は選択権を与えられたところで、拒否なんて初めからするつもりはない。
「わかりました。じゃあ、行きましょうか。ゲームセンター」
幸い、このショッピングモール内にもゲームセンターは存在している。実は映画館に行くまでに目には入っていたし、もしかしたら紗季先輩もそれを見て行きたくなったかもしれない。