「それなら、紗季先輩が考える創作者に必要なものって、なんなんですか?」

 結論を急ぐ俺に、紗季先輩はもっと勿体ぶると思っていたのだが、意外にもあっさりと答えを口にした。

「自分の気持ちに正直な人間だよ」

 その答えを聞いて、今度は俺が首を傾げる番だった。

「……すみません、俺にはいまいちよく分からないんですが」

「だから言っただろう。世間一般の解答じゃないって」

 確かにそうなのだが、あまりにも象徴的すぎて俺の中で上手く消化できずモヤモヤしてしまう……。

 すると、そんな様子を見かねたのか、再びパンケーキを口に運び始めた先輩が解説を付け加えた。

「もっと簡単に言えば、何かを伝えたいという感情の問題だよ。その気持ちに正直に向き合えた人間が創作者になるんだよ。だけど、殆どの人はそこで色々な理由を並べて実行には移さないのさ」

 そして、先輩はじっと俺の顔を見つめながら、話を続ける。

「そうだね、さっきの慎太郎くんの言葉を例にあげようか? たとえば、私が小説を書こうと思ったとする。だけど、私は絶対にそれを実現させることはない。どうしてだと思う?」

 またしても、俺に質問を投げかける紗季先輩。

「えっと……すみません……。やっぱり、俺にはわかりません」

 一考したものの、残念ながら俺に明確な答えなど出てくるはずもなく、俺は「参りました」と言わんばかりに、首を横に振る。

 すると、先輩は笑みを作りながら、そっと囁くように解答を述べた。