「先輩が書く小説とか、きっと面白いんだろうなって思ったんです。俺なんかより色んな作品を読んでますし……」

 すると、先輩は眉間に寄せていた皺を緩めて答える。

「いや、私は創作者には向いていないよ」

 はっきりと、紗季先輩はそう告げた。

「確かに、私はそれなりに作品には触れてきたし、人が残してきた創作物というものには敬意を持って接しているが、それはあくまで『読者』や『視聴者』としての立場からだよ」

 そして、紗季先輩は両手で握っていたナイフとフォークを一度置いて、口を開いた。

「さて、慎太郎くん。ここで一つきみに答えてもらいたいんだが、創作者に絶対的に必要なものとはなんだと思う?」

「絶対的に必要なもの……ですか?」

「そう。但し、これはあくまで私の持論であって世間一般の解答にはならないことは付け加えておくよ。さあ、どうだろう?」

 先輩は、柔和な笑みを浮かべながら、俺の解答を待つ。

 その様子は、どこか俺を試しているようにも見えた。

「えっと、技術とか……知識……ですかね?」

 俺は必死に考えてみたが、出てきたのは至って平凡な解答だった。

 しかし、先輩は否定の言葉を述べるでもなく、むしろ納得したような口調で返事をした。

「ふむ、確かにそれも重要かな。ただ、そこはスキルの面といえばいいのかな? 多分だけど、きっとそういうものは大なり小なりどんな人でも持っているものだよ。そういう意味では、誰でもスタートラインに立つ権利は既に持ち合わせている」

 もちろん、私や慎太郎くんにもね、と紗季先輩は付け足した。