二時間後、俺と紗季先輩はショッピングモールの喫茶店に入って昼食を摂っていた。
「なかなか面白い映画だったね。一見子供向けに作られた作品だったけれど、私たちのような年代にも共感できるシーンも押さえていて、退屈しなかったよ」
先輩はアイスコーヒーをストローでかき混ぜながら僕に感想を述べた。
勝手なイメージで紗季先輩はブラックを好むのかと思っていたけれど、シロップとミルクをたっぷり入れていたのにはちょっと驚いた。
さらには、紗季先輩の前には、これでもかとクリームが乗ったパンケーキ(ダブル)が置かれていた。
紗季先輩、どうやらかなりの甘党らしい。
もしかしたら、味覚的なものでは翠と馬が合うかもしれない。
しかし、翠とは違ってその喜びを表情に出すことはなく、俺に映画の感想を言ったときと同じ様子でパンケーキをフォークで一口サイズにして口に運ぶ。
俺は先輩とは違い、特に食べ物を頼んではいなかったので、先輩が退屈しないよう会話を繋げることにした。
「先輩って、自分で話とか考えたりしないんですか?」
そう聞くと、先輩は次のパンケーキを切り分けながら返答する。
「ん? どうしたんだい、急に?」
少し唐突だったからなのか、不思議そうに先輩は首を傾げる。
「いえ……紗季先輩って、なんとなくそういう創作者っぽい感じがしますから」
しかし、先輩は俺の発言に対して、やや眉を寄せながら不満そうに呟いた。
「なんだい、慎太郎くんは作品と作者を結びつけるタイプなのかい?」
「えっと、そういう訳じゃないですけど……」
「じゃあ、どういう意味だい?」
珍しく、先輩が反抗的な態度を取っていることに多少の驚きがあった。
もしかして、地雷を踏んでしまったのだろうか?
ああ、そういえば先輩は太宰のことも、作者は嫌いだけど作品は好きだと言っていたっけ?
ただ、俺が焦点の当てたい箇所はもっと別なので、なんとか軌道を修正させる。