「先輩、どうかしたんですか?」
「……いや、親子というのは、ああいう感じだったな、と思ってね」
そう告げた先輩は、まるで羨望のような眼差しを彼女たちに向けていた。
「行こうか、慎太郎くん」
ただ、話はそれで終わりのようで、先輩は俺を促してその場を離れてしまった。
そして、チケットに書かれたシアターへと向かうと、まだスクリーンには上映前の映像が流れていて、紙芝居風のイヌとリスがポップコーンを食べながらお得なキャンペーン情報を面白可笑しく紹介していた。
俺と先輩が選んだ席は、スクリーンから一番離れた場所で、丁度スクリーンと正面になる位置だった。
座席を選んだのは先輩だけど、俺も後ろの席の方が誰かの視線に気にすることもないので有難かった。
そして、シアター全体が暗くなっていく。
もうすぐ上映時間なのだろう。
客席は半分以上を占めていて、見た限りでは老若男女問わずといった客層で、家族で来ている人たちや、俺や先輩のように男女で来ている学生っぽい人たちもいた。
果たして、俺と先輩は他人から見れば、どんな風に思われているのだろうかと、普段考えないようなことが脳裏をよぎる。
スクリーンには、お馴染みの映画泥棒のCMが流れ始めていた。