「そうだったのか。なんだか意外だね」

 俺の話を聞いて、紗季先輩はそんな感想を漏らした。

 どうやら紗季先輩にとって、俺は映画を嗜む人間には見えていなかったらしい。

「いや、そうではなくて、慎太郎(しんたろう)くんが動画配信サイトを使っているというのが、ちょっと意外に思ってしまってね。そういう新しいサービスは避けそうな気がしたから」

 何気ない会話だったのだが、この先輩の発言を聞いて、俺は自分の失言に気が付くことになる。

 何度も言うが、今は俺がいた時代から五年前の時代なのだ。

 うろ覚えだが、俺が本来いる時代こそ動画配信サービスなど別段珍しくもないコンテンツだったが、五年前となると、動画配信サービスはまだ日本にはやっと普及し始めた程度だったような気がする。

 ましてや、高校生で何かの動画配信サービスに加入をしているというのは、かなり珍しい部類だったかもしれない。

 全く……この五年間でもサブカルチャーの形は大きく変化していることを実感させられる。色々と発言には気を付けなくては。

「それで、慎太郎くんは何か観たい映画でもあったのかい?」

「あっ、いえ……。すみません、あまり考えてませんでした」

 正直、紗季先輩の趣味といえば読書くらいしか思いつかず、どこかゆっくりできる場所で誰でも楽しめる場所といえば映画館だろうという考えで来たのだが、その肝心の映画を何にするのかは全く考えていなかった。

「だったら、映画は私が選んでもいいかい?」

 先輩は、カウンターの上に設置されたモニターに表示されている作品と上映時間を確認し始める。

「そうだね。あれなんてどうだい?」

 そして、先輩が選んだ映画は、意外にもアニメ映画だった。

 ただ、その作品は有名な監督が担当していることもあり、幅広い年齢層から支持されている作品で、当時は話題作としてCMもよくテレビで目にしていた。

 俺は特に異論はなかったので、先輩の提案をそのまま採用する形となった。

 本当は既に観たことがある映画だったけれど、それは先輩には黙っておくことにした。

 面白い映画は何度観たって面白いし、新しい発見があったりして違う楽しみ方だってできる。

 あと、単純に俺の記憶能力が乏しいので、忘れている場面があったりするかもしれないし。