「ふむ、ベタベタだね」
大型ショッピングモールの自動ゲートを通り、俺が指定した目的地に到着した紗季先輩が発した第一声が、そんな言葉だった。
もちろん、この「ベタベタ」というのは、猛暑によって汗をかいてしまったという表現ではなく(むしろ、いつも通り先輩は汗一つかいていない)、別の意味の「ベタベタ」だった。
しかし、そんな直接的に言われてしまっては俺としても恥ずかしいので、あたかも先輩の批評は聞こえなかったことにして、会話を広げる。
「先輩って、映画とかあまり好きじゃなかったですか?」
「いや、好きだよ。慎太郎くんも好きなのかい?」
「好き……っていうほどじゃないですけど、時間ができたりすると観るって感じですかね。まあ、最近はほとんど配信で観てますから、映画館に来るのは久しぶりですけど」
俺みたいな大学生活を送っていると、学校とバイト以外は殆ど家にいることが多いので、動画配信サイトにはかなりお世話になっている。
映画は大体二時間くらいのものが多いし、休日の空いた時間などを埋めるにはうってつけなのだ。
それに、そういう時間に費やしていた読書からも、ずっと離れていたのも要因だ。