「あの、先輩。今日ってなんの為に、ここに来たんですか?」

 実は、俺は今の今まで今日の目的というものを全く聞いていなかった。

 いや、それを確認せずに黙って付いてきた俺も俺なのだが、なんとなく、先輩が隠しているように感じたので、今の今まで聞き出せなかったのだ。

 実際、紗季先輩もずっと何も言わなかったし、行きの電車でも、この駅まで行くとだけ告げられただけだ。

「ああ。そういえば言ってなかったけど……」

 しかし、紗季先輩は俺が指摘するまで、そのことに全く気付いていなかったとでも言いたげな態度を見せて、こう告げた。

「全く予定なんてないよ」

「……はい?」

「ただ、慎太郎くんと一日一緒に過ごしてみたかったんだ」

「いや……それならいつものように図書室でも……」

「まぁ、先輩の受験勉強の息抜きに付き合わされていると思ってくれたまえ。ただ、エスコートはきみに任せるよ」

 そういって、先輩は俺との距離を一気に詰めてきた。

 そして、そっと俺の手に一瞬だけ触れた瞬間、そのまま腕を絡みつけるような動作をする。

 だが、俺の身体がその瞬間に震えてしまったせいだろう。

「ああ……こういうのは、さすがにやりすぎかな?」

 先輩はちょっとだけ笑みを崩しながらも、腕を組まずにそのまま俺の隣に立った。

 安心したような、残念なことをしてしまったというような、複雑な心境を抱く。

 とりあえず、この炎天下の中、先輩を歩き回らせるのは紳士的ではないと思った俺は、近くの大型ショッピングモールを目指して歩き始めたのだった。