――明日は私と、デートをしてみる気はないかい?
その言葉通り、俺は現在、紗季先輩と絶賛デート中なのである。
俺が知っているデートと同じなら、確かに今の状況を客観的にみれば、その性質は充分に満たしているのだろうが、俺の心情としては極めて複雑なものだった。
紗季先輩のことだ。どうせ俺をからかって、その様子を見て面白がっているに決まっている。
だから、いつもより脈拍が早くなっているように感じるのも気のせいだ。
だいたい、先輩だって今日はただの気晴らしのようなことがしたくて、俺を誘ったに違いない。
そうだ。きっとそうに決まっている。
まさか、本気で俺とデートをしたかったわけじゃないだろう。
「ところで、慎太郎くん。私はまだきみから肝心なことを言って貰っていなかったね?」
せっかく意識をそらそうとしたのに、先輩は軽い足取りで少し離れてから、俺にこう尋ねる。
「どうだい? 初めて見た私の私服姿は?」
にこっ、と大人っぽい表情で笑みを作る先輩。
先輩の言う通り、今日は学校指定の制服ではなく、お互いに私服姿だった。
紗季先輩は、黒いレースのついたワンピースに、涼し気なサンダルを履いていた。
装飾品といえば、首から何かネックレスのようなものを掛けているようだが、服の中に入っていて、見えるのは金色のチェーンの部分だけだった。
先輩らしいシンプルなコーディネートだとは思いつつも、その透明感ある姿を直視できないのもまた事実である。
だが、なかなか口を開かない俺に対しても、先輩はただ黙って笑顔を浮かべながら俺の言葉を待っている。
ああ、こういうこと、確か翠のときもあったな、なんて思いつつ、根負けしてしまった俺は、先輩に聞こえるか聞こえないかの声で、そっと呟いた。
「に……似合ってると、思います」
「それだけ?」
「……凄く……大人っぽいです……」
「なるほど……うん、及第点にしてあげよう」
表情を見る限り、俺の言葉を聞いて先輩は上機嫌になっていた。
なので、俺はこのタイミングで、ずっと頭の中にあった疑問を口にする。