先輩を後ろに乗せて自転車で走ること、数十分。

 幸い、俺と紗季(さき)先輩が二人乗りをしているところを学校の生徒や関係者に目撃されることはなかった。

 そして、俺が先輩を連れてきた場所は、来週祭りが開催される神社からほんの少し離れた丘の上だった。

 さすがに、丘の上を登るときは先輩に自転車から降りて歩いてもらったけれど、自転車の乗り心地は絶対によくなかったであろうにも関わらず、先輩はどこか満足気な顔をしていた。

 丘を登った先には、この町を一望できる平地が広がっている。

 随分と久しぶりに来たけれど、この場所は俺の知っている景色と何一つ変わっていなかった。

「綺麗な場所だね」

 少しずつ、町が夕日に染まっていく様子眺めながら、先輩はそっと呟いた。

「……ここが、きみの行きたかった場所なのかい?」

 後ろで自転車を止めていた俺に向かって、紗季先輩は俺に質問を投げかける。

 夕日を浴びた先輩の表情は、いつもの白い肌とは違い、少し赤みを帯びていた。

「なんとなく、先輩に言われて一番に思い浮かんだのがここだったんです。太鼓の音で神社の近くにあるこの場所を思い出したっていうのも理由かもしれないですけど、ここ、中学の頃まではよく来てたんです」

 別に、何か目的があって来るような場所ではなかったけれど、ここは人なんて殆ど誰もこないし、自分の時間を邪魔されずに過ごせる場所なので、しばらく通うようになっていた時期があった。多分、(みどり)だって俺がここに通っていたことなんて知らないはずだ。