「先輩は、ここらへんの子供が太鼓役で集められること、知らなかったんですか?」
てっきり、ここらへんに住んでいる人間なら知っていると思ったのだが、学区が違うとそういう話もなかったのだろうか?
そう思っての質問だったが、先輩は顔色を変えずに、あっさりと答えた。
「ああ、私がこの町に来たのは中学の頃でね。だから、あまり詳しくはないんだ」
知らなかった。
てっきり、俺と同じように学校までは徒歩で通っているので、中学はもちろん小学校もこのあたりの小学校に通っていたものだと思っていた。
……そういう話さえ、以前は先輩と話していなかったのだと痛感させられる。
「だから、祭りも存在は知っていたのだけど、参加したことはないんだ」
そう告げた横顔を見て、俺の中に浮かび上がる、一つの記憶。
夏祭りの日。
私はずっと、きみを待っています。
栞に書かれていた、メッセージ。
もし、それを書いたのが、本当に先輩だったとしたら……。
「あの、先輩……」
――俺と一緒に、祭りに行きたいと思ってくれているのだろうか?