「……あ」
しかし、そんな思考は、停止してしまう。
何故なら、目の前に、よく見知った背中を目撃したからだ。
学校から指定されたカッターシャツにスカート姿。
長く伸びる足は黒のニーハイソックスに隠れているものの、そのすらりとしたフォルムは鮮明と浮き出していた。
「……ん?」
そして、俺の自転車が近づいてくる音に気付いたのか、彼女も振り返る。
俺は、彼女のすぐそばで自転車を止めた。
「やあ、おはよう。慎太郎くん」
すると、紗季先輩は、いつものように微笑み、俺に挨拶をする。
こんなに暑いというのに、先輩は汗一つかいてなくて、涼しい顔をしていた。
「よかった。今日は遅くなってしまったから、きみを待たせてしまうことになるかと思ったよ」
自転車を押しながら、隣で歩く俺に対して、紗季先輩は本当にほっとしたような、そんな表情を見せる。
「……ん、どうしたんだい?」
「えっ? どうしたって、何がですか?」
すると、紗季先輩は少し困ったような顔をして、俺に言った。
「いや、少しいつもの慎太郎くんと違うような気がしてね。なんだか元気がないようにみえたんだけど、私の気のせいだろうか?」
そういって、先輩は一歩だけ俺に距離を詰めてくる。
手を伸ばせば、先輩の身体に触れることができるその距離に、自然と脈があがってしまう。
俺は、先輩が近づいてきた距離の半歩分だけ下がり、慌てて口を開く。