そして、その頃にはもう、俺は認めざるを得なかった。
――もう、紗季先輩はいなくなってしまったのだと。
だから、もう二度と、あのような思いをするのはごめんだ。
せめて、今目の前にいる紗季先輩には、自殺なんてしてほしくはない。
そのために、俺がやらなくてはいけないことを、探さなくてはいけないのだ。
「そうだ、慎太郎くんに伝えなくてはいけないことがあったんだ」
すると、持参してきたお弁当を食べ終わったらしい先輩が、少し言いづらそうに口を開いた。
「悪いけど、明日は図書室の開放を止めようと思うんだ。ちょっと、私に用事があってね」
「用事……ですか?」
「兄が帰ってくるんだ。それで、私も家にいなくちゃいけないんでね」
「お兄さん……ですか」
紗季先輩に、お兄さんがいるとは初耳だった。
俺が家に行ったときも、結局母親だという人以外には会っていないので、家族構成は知らなかったし、先輩から直接聞いたこともなかった。
「その……仲が良いんですね。お兄さんと」
「……どうしてだい?」
すると、先輩は無表情のまま、僕にそう問い返してきた。
咄嗟のことで、俺は上手く反応できなかったのだが、紗季先輩はそのまま話を続けた。
「どうして、私と兄さんの仲がいいと、慎太郎くんは思ったのかな?」
「いや、えっと……」
何故、と言われても、正直そこまで意味のあった発言ではない。
だが、先輩にとっては引っ掛かった台詞だったらしい。
「なんとなく、そう思ったんです……。お兄さんが帰ってくる日に、ちゃんと予定を空けておくくらいですから……」
「そうかい……」
紗季先輩は、僕の回答を聞いても険しい表情を崩さなかった。