「よし、今日は私がきみの先生になろうじゃないか」

 紗季先輩は、ますます俺に身体を預けるようにして距離を縮めてきた。

「あ、あの……先輩!」

「ん? なんだい?」

「その……先輩が勉強できなくなっちゃうのは、マズい気がするんですが……」

 本当はもっと別の理由だったのが、この状況を改善したかった俺はとっさに言い訳を口にした。

「そんなことはないさ。人に教えるのも立派な勉強方法の一つだからね。それとも、私が先生じゃあ、慎太郎くんは嫌なのかい?」

 しかし、紗季先輩は全く意に返さず俺にそう告げた。

「いえ、そんなつもりで言ったわけじゃあ……」

「だったら、遠慮することはないさ。それに、さっきも言ったことだが、きみはもう少し人に甘えることを覚えたほうがいい。特に、私が相手ならね」

 そして、くすっと上目遣いで笑う先輩は、年上のはずなのに、可憐な少女のように魅力的な笑顔を浮かべていた。

 いや、俺の体感では、もう先輩だって年下なんだ。

 それなのに、俺にはやっぱり、この人が大人の女性の姿に見えてしまうのだった。