夏祭りの日。
 私はずっと、きみを待っています。


 俺がそのメッセージ通りに、夏祭りの日に紗季先輩を迎えに行っていれば、どうなっていたのだろうか?


 ――夏祭りの日、先輩は俺を本当に待ってくれていたのだとしたら。


 そう考えると、悔やんでも悔やみきれない後悔が俺を襲ってきた。

「先輩は、俺に会おうとしてくれてたんじゃないか……」

 ――もしかしたら、俺が来なかったから、先輩は……。

「あら、慎太郎。あんた、帰って来てたの?」

 いきなり扉が開いたと思ったら、掃除機を持った母さんが堂々と部屋に入ってきた。

「悪いけど下のリビングに行っててくれない。そうだ、冷蔵庫にスイカがあるから食べてていいわよ」

 それだけ言うと、母さんは掃除機のコードを引っ張り出していた。

「なぁ、母さん」

「なに?」

「……今年の夏祭りって、いつだっけ?」

「夏祭り? えっと、確か八月九日だったかしら?」

 八月九日。

 ……紗季先輩が死んだという連絡を聞いたのは、それから一週間後のことだ。

 だから、俺と約束をした日までは、やっぱり先輩は生きていたことになる。

「あんたが夏祭りの日を気にするなんて珍しいわね。最近は全然行ってないくせに」

「別に、ちょっと気になっただけだよ」

「そう。昔はよく友達と行ってたのに、中学になってから全然行かなくなったものね。せっかくなら、(みどり)ちゃんを誘って行ってきたらどう?」

「いや、なんで翠が出てくるんだよ?」

「だって、あんたと仲良くしてくれてるのなんて、今は翠ちゃんだけでしょ?」

 何気に酷いことを言われたような気がするが、事実なので反論することができなかった。

「まぁ、もう行ったんだけどな……」

「うん? いま何か言った?」

「いいや、別に」

「そう、だったら少しだけ部屋を空けて頂戴」

 こうして、俺は母に追い出される形で部屋から出て行った。