そうなると、ここで②の問題にも繋がる疑問がある。

 果たして、俺はこの時代にいつまでいられるのだろうか、ということだ?

 よくタイムスリップもので禁忌とされているのは「もう一人の自分と出会ってはいけない」というものだ。

 だが、その点は心配しなくていい。

 何故なら、今の俺が2015年の俺自身だからだ。

 そして、2020年の俺だって、この世界には存在していない。

 もしかしたら、その頃の俺は、まだクーラーの効いていない自室で熱帯夜と戦いながら暢気に寝ている可能性もあるのだ。

「ん、待てよ。確か……」

 昨晩(俺にとっては昨晩だ)のことを思い出して、ふと蘇ってくる記憶があった。

 あのとき、俺は親戚の叔父さんたちに絡まれるのが嫌だから、シャワーを浴びるのをためらって、大学から出されている課題のレポートに手を付けようとした。

 しかし、その過程で、たまたま本棚に並べてあった本を見つけて……。

「そうだ! あの栞……!!」

 今まで、どうして忘れてしまっていたのか不思議なくらい、そのときの記憶が鮮明に蘇ってくる。

『人間失格』に挟まれていた、白い花が描かれていた栞。

 俺は、自分の棚に視線を向けて『人間失格』の文庫本を探すが、昨晩まであったその場所には、ちょうど文庫分一冊が入るような隙間ができていた。

 まさか、栞が文庫本ごと消えてしまったのか? なんて一瞬頭に過ぎったが、そうではないことにすぐ気が付いた。

 俺は、ベッドの近くに乱暴に放り投げていた鞄の中を確認する。