そして、数秒間の静寂のうち、彼女は俺に告げる。
「慎太郎くん。この夏休みの間だけでいいから、私のお願いを聞いてくれるかな?」
いつもとは違う、上目遣いでそう尋ねてくる紗季先輩の仕草に、思わず心臓が跳ねる。
まるでおねだりをする子供のようなその態度に戸惑っていると、紗季先輩は含みのある笑みを浮かべながら、こう告げた。
「さっき、図書室を閉めるって話をしていたけど、やっぱり開放できるかどうか聞いてみるよ。誰も利用する人がいないかもしれないけれど、私たちまで来なくなっちゃったら、本たちも可哀想だからね」
もちろん、慎太郎くんが良ければだけどね、と最後に付け加える紗季先輩。
――こんな展開、俺が知っている記憶では存在しなかった。
「……やっぱり、嫌かい?」
なかなか返事をしない俺に対して、紗季先輩は不安そうな目で俺を見つめる。
「いや、さっきから上の空だったみたいだからね。もしかしたら、夏休みには何か予定があったのかい?」
色々と考えを巡らせてしまっていたせいで、どうやら、紗季先輩にも分かってしまうくらい、俺は動揺してしまっていたらしい。
「い、いえ! そういう訳じゃないです!」
「本当かい? 図書室の開放となると、慎太郎くんにも当番を手伝って貰わないといけなくなるから、私に遠慮せずに嫌なことは嫌だと言ってくれて構わないのだよ?」
「そ、そんなことありません。手伝いなんて、いくらでもします」
「そうかい? それならいいんだが」
「ただ、俺からも条件があるんですけど……いいですか?」
「条件?」
そして、首を傾げる先輩に対して、俺はある条件を提示する。
「俺も……ずっと一緒に居ていいですか?」
俺は、座っていた椅子から立ち上がって、もう一度、紗季先輩に向かって告げる。
「この夏は、俺もずっと、先輩と一緒にいたいんです」
先輩は、この夏を最後に、俺の前から消えてしまう。
――それも、自ら命を絶つという、最悪の形で。