「俺も……夏が嫌いなんです……」

「……そっか」

 紗季先輩はいつもの調子で返事をすると、笑みを浮かべながらこう尋ねてきた。

「それがどうしてなのか、聞いてもいいかい?」

 純粋な興味からだったのか、それとも、ただ単に話を続けるために言ってくれたのかはわからない。

 それでも、俺は正直に、先輩に話したのだった。

「夏が来ると、俺の大切だった人のことを思い出すんです……」

 夏が来るたびに、俺は胸が痛くなって、上手く呼吸ができないような感覚に襲われてしまう。

 だから、俺は夏が嫌いだ。
 
 ――この夏、俺は死んでしまった紗季先輩のことを、ずっと忘れられないでいたから。


「だから、先輩も消えたいなんて言わないでください!」


 こんなことを言うつもりなんて毛頭なかったのに、気が付いたら俺は真剣な表情で紗季先輩を見つめていた。