唐突に、彼女が俺にそう尋ねてきた。
綺麗に伸びた清涼感のある黒色の髪。
日差しを浴びた形跡がどこにもない、白い肌。
そして、制服の袖からは女性らしい細い腕が伸びていて、その爪先はネイルなどをしておらず自然な光を反射させていた。
――同じだ。
――俺があの日、紗季先輩から聞いたことと全く同じ質問。
「私はね、ずっと夏が嫌いなんだよ」
さも当たり前のように、自然な口調でそう告げる彼女。
「だから、もし私が願いを一つだけ叶えるのだとしたら、二度と夏が来ないようにしてほしいって神様に頼むつもりでね」
――俺はただ、黙って彼女の言葉を聞くことしかできなった。
「なかなかいいアイディアだと思うんだけど、慎太郎くんが夏が好きで、もしこのお願いが成就されてしまうようなことになったら、私は悪い事をしちゃうことになるからね。先に謝っておこうと思ったんだ」
――やはり、彼女の言っていることは、俺には理解できなかった。
――そして、視線を向ける俺に向かって、彼女は微笑を浮かべながら、こう告げるのだ。
「それとも、私が消えてしまえばいいのか……」
――それは、酷く悲しく、そして何かを諦めているような、そんな声色。
――俺はこの日、紗季先輩の言っていることを理解しようとしなかった。
――そうして、俺たちは二度と会えなくなった。
――本当に、彼女は消えてしまったから。
――だから、俺は……。
「俺も……嫌いです」
咄嗟のことで、その言葉を発したのが自分だということに気付かなったくらいだった。
でも、その台詞は間違いなく、俺が言ったものだった。