「――い、こらー! 慎太郎~!!」
「いてっ!!」
必死に考えようとした俺の脳天に、いきなり激痛が走った。
その衝撃に思わず膝を折ってしまった俺に対して、頭上から声をかける人物はそんなことはお構いなしに話しかけてくる。
「ちょっと。なんで無視するのよ? さっきからずっと呼んでたんだけど」
その人物は、かなりご立腹なのか言葉の端々に苛立ちがこもっていた。
俺は、涙目になっていることも隠さず、その声の人物を確認してみると――。
「えっ? 翠……なのか?」
そこには、俺の幼なじみの水菜翠が、学生鞄を持ちながら俺を見ていた。
「……何よ、その顔。そんなに痛くしてないでしょ?」
翠は俺のリアクションが不満だったのか、鋭い目つきで俺を睨んでくる。
だが、俺が驚きのあまり固まってしまったのは、学生鞄で叩かれたからではなく、翠の姿が高校生のときのままだったからだ。
白いセーラー服に、黒髪を短く切りそろえただけの、シンプルな髪型。
肌の色も少し焼けていて健康的に見える。
だが、よく考えたらそれは当たり前のことで、ここが2015年なら幼なじみの翠だって、俺と同じように高校二年生の姿をしていて当然だ。
ただ、頭でわかっていることでも、こうして目の前に現れると、動揺を隠しきれなかった。
「ってか、ホントに大丈夫なの?」
今度は、やや心配そうな声色で話しかけてくる翠。
さっきまで寄っていた眉間の皺はなくなって複雑そうな表情をしていた。
「……ああ、大丈夫。なんともないから」
殴られはしたものの、これ以上翠に心配をかけるのは悪い気がしたので、俺は立ち上がってなんともないことをアピールする。
「そう。全く、心配させないでよ。慎太郎のくせに」
「くせに、ってなんだよ」
「そのままの意味よ。あたしを無視した罰よ」
そういって、翠はスキップをするような軽やかな歩幅で先へ進む。
その後ろ姿が、俺にとってはどうしようもなく、懐かしさを感じてしまう。