「慎太郎!! あんた、いつまで寝てるの!」
その声と同時に、古くなった階段の軋む音が響いたかと思えば、瞬く間に部屋の扉が勢いよく開いた。
「……なんだ。もう起きてるんじゃない。早くしないとご飯食べる時間ないわよ」
母さんは眉間に皺を寄せながらブツブツと俺に対する文句を言ってくる。
だが、俺はそんな母さんを見ながら「何かが変だ」と奇妙な感覚に襲われる。
違う。
何かが、違う気がする。
「……どうしたのよ。人の顔をジロジロみて」
顔……。
そうだ! 顔だ!
「母さん……なんか若くなってない?」
「はあ?」
今度は、母さんが俺に対して怪訝な目を向ける。
口では言わなかったが、明らかに「こいつ、何言ってんだ?」という目線が俺を突き刺してくる。
それでも、見れば見るほど、今目の前にいる母さんが、昨日までの母さんとは違うことを実感する。
昨日、久々に会った母さんより、ほんの少しだけだが若い。
だが、それは間違いなく俺の母親で……。
それこそ、毎日顔を合わせていたときのような……。
「なに馬鹿なこと言ってんのよ? まだ夏休みも始まってないのに休みボケしてんじゃないの? まぁ、いいからさっさと降りてらっしゃい。学校に遅れるわよ」
だが、俺の疑問が解ける前に、母さんはさっさと部屋から出て行きリビングへと戻ってしまった。