「……あっ」
その音に気付いた翠は、空を見上げていて、その視線の先には夜空を彩る花火が次々と上がっていた。
何度も何度も打ちあがる花火を、翠は純粋な眼差しで、子供の頃と変わらない表情で眺めていた。
だけど、多分俺は、その花火を昔と同じように見ることはできなくなっているのだろう。
どんなに鮮やかで、綺麗なものを見ても、今の俺の心を彩ることはない。
「……ねえ、慎太郎」
そして、翠は花火を見ながら、俺に囁く。
「もうさ……忘れなよ。黒崎先輩のことは……」
それは、俺を慰めるために言ってくれた、翠なりの優しさなのだろう。
翠は昔から、こういう奴なのだ。
一人になろうとする俺を、翠は決して許してくれなかった。
「あんたが先輩にずっと縛られる必要なんてないよ。慎太郎には慎太郎の人生があるんだから」
どこまでもお節介で、優しい幼なじみ。
だけど俺にとっては、そんな翠の優しさすら、残酷なのだ。
「お前には、関係のないだろ……」
だから俺には、そんな最低な言葉しか吐き出せなかった。
「慎太郎……」
翠は震える声で、俺の名前を呼ぶ。
「悪い……俺、先に帰る」
俺は座っていたベンチから立ち上がって、翠に背を向けたまま立ち去っていく。
空では未だに花火の音が響いていたが、俺は振り返ることなく、その場を後にした。