「あっ、そうだ。俺、どうしても、わからないことがあって……って、そうか……今の紗季先輩じゃあ、聞いても意味がないよな……」

 俺はひとつだけ、まだ解決していないことがあったので紗季先輩に問いただそうとしたのだが、今となっては誰にもわからない問題になってしまっている。

「構わないよ。言ってごらん」

 しかし、紗季先輩が興味深そうにしていたので、俺は自分が抱いていた疑問を吐露した。

「俺が最初に経験した世界のことなんですけど、なんで、紗季先輩が栞を使って俺にメッセージを残したのか、理由がわからないんです……」

 確かに、先輩がメッセージを残してくれたおかげで俺は過去に戻るという不思議な現象に遭遇することになったのだが、まさか、紗季先輩だって栞にそんな力があるなんて思っていなかっただろう。

 実際、聞いてみると栞自体は何の変哲もない、子供の頃に紗季先輩がお母さんから貰ったものだったそうだ。

 ただ、二回目のときは、近くに空也さんがいたので、直接SOSが言えない状況だった為、あのようなわかりにくい場所に隠したというのは説明がつく。

 しかし、最初の栞を挟む環境のことを考えると、どうもやり方が回りくどいと思ってしまう。

 それとも、あの本に栞を挟むという行為に、何か意味があったのだろうか……。

「ふむ、なるほど」

 だが、俺の疑問を聞いた紗季先輩は、何故か納得したような顔をみせた。

「先輩、もしかして理由がわかったんですか?」

「まあね。ただ、これがミステリー小説なら、さぞかし駄作な推理だろうね」

 そして、彼女はあっさりと、こう答えたのだった。

「単純に、その頃の私は男の子をデートに誘うのが恥ずかしかっただけだと思うよ」

「……はい?」

「私のことだから、気付いてくれれば嬉しいし、気づかなかったらそれでいい、くらいのことを思ってたんじゃないかな?」

「は、はぁ……」

 本当に、そんな理由なのだろうか?

 だとしたら、俺がわからなかったのは、当然のような気がしていた。

「でも、きみはちゃんと気付いてくれた」

 そういうと、紗季先輩は、満面の笑みを浮かべて、俺に告げる。

「ありがとう、慎太郎くん。私を見つけてくれて」

 その瞬間、目の前に立っている紗季先輩の姿が、制服を着た、俺が一番長く過ごした彼女の姿と重なった。

「……本当に、遅くなりましたけどね」

 俺は、先輩に向かって告げる。

「先輩がどこに行っても、俺がちゃんと見つけますから、待っていてくださいね」

「ああ。ずっと待ってるよ」

 紗季先輩は、どこか満足そうに、目を細めて、そう答えたのだった。