「……ありがとう」

 俺は素直にお礼を言って、ラムネ瓶に口をつけた。

 中に入っているビー玉のせいで、多少の飲みにくさはあったけれど、冷えたラムネは俺の喉を潤すには十分な役割を担ってくれた。

「ってか、俺とはぐれてからもずっと屋台回ってたのか? 結構な時間、俺、ここにいたと思うんだけど」

 正確な時間はわからないが、それでも翠とはぐれてから二、三十分は経過しているはずだ。万が一、その間、俺をずっと捜していたというのなら、ほんの少しだけ、罪悪感が芽生えてしまう。

 しかし、翠から返ってきた答えは意外なものだった。

「違うわよ。ちょっとね、人助けしてたのよ」

「人助け?」

「うん、男の人がね、指輪を落としたみたいだったから、一緒に探してあげたの。大事な指輪なんだってさ」

「指輪……か。結婚指輪とかか?」

 何気なく聞いたことだったが、翠は視線を落としながら、独り言を呟くように俺に告げた。

「……わかんない。でも、その人、あんたと同じ顔してた」

「……は? なんだよ、それ?」

 翠の言っていることがわからず、思わず問い返すと、今度は真剣な表情で俺を見つめながら、彼女は答えた。

「あのね、指輪……ちゃんと見つかったんだよ。でも、その人、最初は喜んでたのに、その後すぐに悲しそうな表情になったの。理由を聞いたら、その指輪をくれた人とは、もう会えないんだってさ」

 そして、翠は俺から視線を外して、呟く。

「もしかしたら、その人もあんたと同じなのかもって、勝手に想像しちゃったんだ。あんたと同じで……その指輪の持ち主のこと、忘れられないんじゃないか、ってさ。だから……」

 と、翠が俺に何かを伝えようとした瞬間、空で光が弾ける音が響き渡った。