しばらくの間、俺と紗季(さき)先輩はベンチに座り、ただ茫然と、町を見下ろしていた。

 町からは点々と灯りが点いていて、まるで川の水流に漂う蛍の光を連想させた。

 そんな中、俺は悩んだ末に今までの出来事を包み隠さずに紗季先輩に全て話すことにした。

 その中には、もちろん俺が過去に戻ったことや、先輩がいなくなってしまった世界の記憶などを経験していることも含めてだ。

 その間、先輩は軽く相槌を打つだけで、最後まで俺の話を全部聞いてくれた。

 そして、話を全て聞き終えた先輩は、顎に手を添えながら呟いた。

「つまり、初めのきみは、私がいなくなった世界にいて、そこから過去に戻って私が死んでしまわないようにした、ということなんだね?」

 普通なら、こんな話誰も信じないのだろうが、紗季先輩は俺の話を否定することなく、理解しようとしていた。

「成程。ということは、私がここにいられるのは慎太郎くんのおかげなのか」

 ふふっ、と紗季先輩が嬉しそうに笑うので、俺は妙に居た堪れない気持ちになってしまった。

「なに、恥ずかしがることはないじゃないか。きみは私の為に過去を変えてくれたんだから。その証拠が、これだよ」

 すると、紗季先輩は俺のほうに手を伸ばしたかと思えば、いきなり俺が着ていたシャツを捲り上げた。

「ちょ、先輩!?」

「……ほら、これが、きみが私を守ってくれた証拠だよ」

 そして、先輩は細い人差し指で優しく、俺の腹部にある傷跡をゆっくりとなぞった。

「あのとき、私はきみが死んでしまうんじゃないかと思って、本当に怖かったんだ」

 そういった紗季先輩の瞳が少し揺れているように見えたのは、多分俺の気のせいじゃないと思う。

「でも……俺、助かったんです、よね?」

 当たり前のことだけど、もし、俺があの場で死んでしまったら、そもそもここに俺は存在していないということになる。

「……ああ、そうか。慎太郎くんは、目が覚めたら今日に戻っていたんだよね? だったら、今度は私から、今の世界がどうなっているのかを話さないとね」

 そういって、紗季先輩は、あの五年前の夏祭りから今までどんなことがあったのか、順番に説明をしてくれた。