目を開けると、また俺は真っ暗な世界に一人ぽつんと漂っていた。

 しかし、今回は俺の意識もはっきりとしていて、この無機質な空間に対しても不思議と恐怖心は湧いてこない。

 そして、俺の目の前に、ゆっくりと球体の光が降りてくる。

 ――慎太郎(しんたろう)、くん。

 俺の頭の中に直接響く声。

 だが、以前のようなノイズは全くなくて、とてもクリアな声で聞こえるようになっていた。

 そして、その正体の声も、俺はもう既に理解していた。

 ――そうだよ。久しぶりだね、慎太郎くん。

 やっぱり、この目の前にいるのは、俺のよく知っている人物だった。

 ――私を助けてくれてありがとう。頑張ったね、慎太郎くん。

 目の前の球体が、ほんのりと光りを放つ。

 ――ただ、少し補足をさせてもらうと、私はきみが助けてくれた私とは少し違うんだよ。

 ん? それは、一体どういうことですか?

 ――私は、きみが二度目に経験した2015年の夏に一緒に過ごした私じゃないということさ。だから、ここにいる私は、きみと夏休みの間、図書室で過ごした私ではないし、デートもしたことがない私なんだ。

 光の球体は、俺にわかるように説明をしてくれているのだろうが、俺には上手く理解できなかった。

 ――ははっ。まぁ、その辺は気にしなくていいよ。とにかく、きみは私を助けてくれたんだ。

 光の球体は、ただゆっくりと光っただけだが、俺には彼女が微笑んでいる姿が浮かんだ。

 ――だから、私はもうきみとは会えないと思うんだ。第一、私自身、こうやってきみに会えるとは思っていなかったからね。

 そういうと同時に、暗かった空間が徐々に白くなっていく。

 そのせいで、光の球体も見えにくくなってしまった。

 ――もう、お別れの時間だね。最後にまた、きみに会えて良かったよ。

 そして、光の球体は、ゆっくりと俺に近づいてきて、眩い光を放ち、俺を包み込む。

 ――きみは、きみが掴んだ未来の中で、生きなさい。

 最後に、そんな声が俺の頭の中で響いたのだった。