――この町だってそうだ。
――あの人がこの町から消えても、平然と彼らは暮らしている。
まるで、最初からあの人がいなかったかのように、この町の人たちは生き続けている。
それでも俺は、この町にいると、あの人のことばかり思い出してしまう。
「ほれっ!」
「つめたっ!」
と、そんなことを考えていると、不意に頬のあたりに何かをぶつけられたような感覚に襲われた。
思わず声が出てしまった俺が首だけ後ろに動かすと、そこにラムネ瓶を持った翠が立っていた。
「な~に難しい顔してんのよ。せっかくの祭りなんだから、楽しみなさいよね」
そういうと、俺の座っていたベンチの空席に翠も腰掛けた。
そして「はい」と言って、先ほど俺の頬に密着させたであろうラムネ瓶を手渡してくる。
「……貰っていいのか?」
「その為に買ってきたのよ。ま、あんたが勝手に帰ってたら自分で飲むつもりだったけど」
本人がくれるというのなら、素直に受け取っておくのが吉だろう。
それに、ちょうど喉が渇いていたところだ。