「――きみたち、何をしているんだ!?」
すると、少し遠い場所でチカチカと懐中電灯のような光が、俺たちの姿を照らす。
「チッ!!」
空也さんは、まるでその光に怯えるように、さらに木が生い茂る山道へと走り去っていった。
俺はその姿を見て、安心する。
良かった。ひとまずこれで、紗季先輩を助けられたんだ。
「……はぁ、はぁ」
緊張が解けてしまったからなのか、俺は急激な寒気に襲われる。
まるで、どんどんと自分の体温が、抜け落ちていくようだった。
ただ、腹部のあたりだけは、灼けるように熱い。
手で触れると、まるで泥に手を突っ込んだような感触があった。
「……あっ、そっか。俺……刺されたんだ」
俺は、黒く染まってしまった自分の手をみつめながら、そのまま後ろに倒れてしまう。
ドサッ、と自分の身体が地面に打ち付けられる感覚があった。
「慎太郎くんっ!!」
すると、紗季先輩が駆け寄って来て、俺の顔を覗き込むように彼女も膝をついた。
「せん……ぱい……?」
「すまない……! 私の……私のせいで……!!」
ポロポロと、先輩の頬から伝う涙の雫が、次々と俺の顔に落ちてくる。
「すみ、ません……なんか、力が、でなくて……」
「当たり前だ! きみは刺されたんだ! もう何もしゃべるな!! 大丈夫だ! 私がすぐに助けるから!!」
先輩は、必死で俺の傷口の部分を手で押さえていた。
その様子を見て、ちゃんと止血をしてくれているんだなと、まるで他人事のように思ってしまった。
「せん……ぱい……」
「慎太郎くん! お願いだから私の言うことを聞いてくれ! このままだと、きみが……」
俺は、そんな先輩の警告を無視して、ポケットに手を突っ込む。
そこには、真っ赤に染まった栞が入っていた。
「せん……ぱい……。すみ、ません……これ、先輩の……ですよね……?」
「そんなことはどうでもいい!! 慎太郎くん!! しっかりしてくれ!!」
「お、おい! 何があったんだ!?」
悲痛に叫ぶ先輩の周りに、今度は二人ほどの男性がやってきて、俺を囲むようにする。
「早く救急車を呼んでくれ!! このままじゃ……!! 慎太郎くんが死んでしまう!!」
そんな人たちに、紗季先輩はいつもの冷静な態度からは想像できないような早口で、何かを訴えかけていた。
「せん……ぱい……」
俺は、そんな先輩に向かって、手を伸ばす。
「もう……どこにも、行かないでくだ……さい」
そんな手を、紗季はしっかりと、握ってくれた。
「大丈夫だ! 私はここにいるぞ、慎太郎くん!!」
――ああ、それなら、良かった。