そして、空也さんの胸に、その刃が突き刺さる――はずだった。

「先輩ッ!」

 ――振り下ろそうとした腕を、俺はしっかりと強く、握っていた。

「……紗季先輩が、そんなこと……しちゃ駄目なんです」

「しんたろう……くん……!」

 彼女の瞳には、真珠のような涙が溜まっていた。

 その顔は、ひどく歪んでいて、苦痛に満ちているようだった。

 もうこれ以上、彼女を傷つけるようなことはさせたくない。

 それが、俺が今彼女に対して出来ることだと思った。

 そして、紗季先輩は震える手で、持っていたサバイバルナイフを地面に落とす。

「慎太郎……くん」

 そして、助けを求めるように、俺に手を伸ばす紗季先輩。

「……ふざけるな」

「きゃっ!?」

 しかし、その瞬間、空也さんは自分の身体に乗っていた紗季先輩を押しのけ、落ちたサバイバルナイフを手に取った。

「お前は……僕の物なんだよおおおおおっ!!」

 再び咆哮を上げて、空也さんは紗季先輩に突進する。

「……先輩ッ!」

 俺は、咄嗟に紗季先輩を突き飛ばして、空也さんの前に立つ。

「……えっ?」

 そして、同時に腹部に今まで感じたことのないような衝撃が伝わってきた。


 ドクドクと。


 真っ赤な血が、俺の身体から噴き出してくる。


「慎太郎くんっ!!」

 俺に突き飛ばされた紗季先輩が悲痛の叫びを上げた。

「……お前!」

 そして、歪んだ表情のまま、空也さんが俺を睨みつけている。

 俺は頭の中がくらくらして、上手く視線が定まらなかった。

 でも、紗季先輩はちゃんと無事……なんだよな?