「!?」

 がっしりと、俺は空也さんの腕を握って拮抗状態となるが、俺はそこで、彼の手にサバイバルナイフが握られていることに気が付いた。

「白石くん。きみも痛い目に遭いたくないだろ? わかったら、そこをどいてくれないかな?」

「……くっ、どくわけ、ないだろ!!」

 叫んではみたものの、俺も空也さんの動きを止めるので精一杯だった。

「……先輩ッ! 早く逃げてください!」

 せめて、今は先輩を安全な場所へ逃げてもらうことしかできない。

 ――そう、思っていたのに。

「……いやだ」

 後ろに膝をついていた先輩が、ゆっくりと立ち上がる。

「ここで逃げても……私に、帰る場所なんて、ないんだから!」

 ――そして、次の瞬間。

「慎太郎くんだけは……私が……私が守るんだっ!!」

 紗季先輩は空也さんに向かって、自分の身体を思いきりぶつけたのだった。

「ぐっ!」

 体格差はあるものの、咄嗟のことで空也さんも体勢を崩してしまい、よろけるようにして倒れこんでしまう。

 同時に、その反動で握っていたサバイバルナイフを落としてしまうが、それを見逃さなかった紗季先輩がナイフを手に取り、そのまま倒れてしまった空也さんに跨るようにして抑え込んだ。

「や、やめろっ、紗季!」

「私は……あなたのオモチャなんかじゃない!! 私は……!」

「何を言ってるんだ! お前は僕の……!!」

「うるさいっ! 私は……私は……!!」

 紗季先輩は、悲鳴のような大声を出し、ナイフを持った手を高く上げ、そのまま空也さんにその刃を、振り下ろす。