「僕はね、紗季を初めて見たときから思ったんだ。『この子を僕の物にしたい』ってね。だから、紗季が僕に服従するオモチャに作り替えたんだよ」
まるで、自らの功績を語るように、空也さんは口を開く。
「ああ、そうそう、最初の頃はホテルに呼び出しても紗季は嫌がっていたんだけど、ちょっと痛い目を遭わせたら、諦めて付いてきてくれたよ。そのあとは大人しいもんで、僕のいうことをなんでも聞いてくれたものさ。そうそう、僕のお小遣いを稼ぐために、色んな男と寝てもらったこともあったっけ?」
「お願い……やめて……そんなこと、慎太郎くんの前で、言わないで……」
「……チッ。そんなにこの男に自分のことを知られるのが恥ずかしいか」
肩を震わせながら、必死に声を張り上げた紗季先輩に、空也さんは舌打ちをした。
紗季先輩が、いかがわしい場所に行っているのを目撃したという翠の話が、まさか、こんな形で真相を聞かされることになるなんて、考えてもいなかった。
俺は本当に、何もわかっちゃいなかったんだ。
「白石くん。きみももう少し大人になってお金さえ用意してくれれば、紗季の身体なんていくらでも……」
「黙れ……」
「ん?」
「黙れって言ってんのが、わかんねえのかよ!!」
俺はもう空也さんに対して嫌悪感しか抱いていなかった。
紗季先輩がどうしてあそこまで空也さんに怯えていたのか、その理由も嫌というほど理解してしまった。
そして、今までそのことに気付かなかった自分が、腹正しくて仕方なかった。
「あんたのせいで……あんたのせいで先輩はッ!!」
「……慎太郎、くん」
紗季先輩が、泣きそうな声色で俺に声をかける。
どうして俺は、こんなにつらそうにしている先輩を放っておいたんだろう。
本当に、情けなくて仕方ない。
「……はぁ」
しかし、そんな俺たちのやりとりを傍観していた空也さんの表情がみるみるうちに歪んでいく。
「白石くん……本当に、きみは目障りなんだよ」
地面に唾を吐き出した空也さんは、その真っ黒な瞳で俺を見据えながら言った。
「少し前からね、紗季が僕には見せなかった顔をするようになったんだ。あれだけ躾けて僕だけしか見ないようにさせていたのに、どうしてかわかるかい? それはね、きみの存在だよ、白石くん」
「俺の、存在?」
「ああ、僕と初めて会った日のことは憶えているかい? あのときの紗季をみたときは驚いたよ。きみと一緒にいるときの紗季は、僕といるときと全く違う顔をしていた。まるで、普通の女の子のようだった……」
そしてまた、空也さんはゆっくりと俺たちに近づいてくる。
「本当に不愉快だったよ。紗季は僕の言うことだけを聞いていればいいのに……」
そして、空也さんは怒りを滲ませた咆哮をあげる。
「僕の……僕の紗季に何をしたんだぁぁぁぁ!!!!」
咄嗟に、俺は紗季先輩を庇うような形になって、空也さんを止める。