「それに、紗季も駄目だろ? せっかく僕がずっと一緒にいてあげるって言ってるのに、逃げ出すなんて」

 どこまでも落ち着いた口調で話す空也(くうや)さんを、紗季先輩は鋭い視線で睨む。

「……逃げ出すのは、当たり前でしょ」

 そして、紗季先輩は苦痛に耐えるように、言葉を吐き出した。

「私を縛りつけてまで……外に出したくなかったの?」

 俺は、その瞬間に自分の全ての過ちを理解した。


 紗季先輩が、学校に来なかった理由。
 俺が空也さんと一緒に迎えに来たと伝えたときの反応。
 手首に残る縛られた痕。


 ここまでの証拠が揃っていれば、紗季先輩がどんな目に遭っていたのか、容易に想像ができた。

 そして、一体誰が紗季先輩を苦しめていたのかも、もはや明白だった。

「空也さん……あなたは……俺を騙していたんですか?」

「おっと、なんのことだい?」

「あなたは紗季先輩の味方になってくれるって……そう言ったじゃないですか!」

 俺は、空也さんに対して怒鳴るようにそう問いかける。

 だが、この怒りは決して空也さんへのものだけじゃなくて、自分の愚かさすらもぶつけてしまっていることは、自分自身、よくわかっていた。

 それでも、この怒りを飲み込めるほど、俺は大人じゃない。

「いやいや、白石くん。誤解をしてもらったら困るよ。言っただろう? 僕はね、紗季のことが何よりも大切なのさ」

 しかし、空也さんは平然と言ってのけたのち、立ち止まった。

「嘘だ……だったら、どうして紗季先輩にこんな酷い目を遭わせているんですか?」

「……はぁ。まるで子供だね。きみはいちいち理由がないと納得ができないのかい? まあ、いいか……えっと、紗季をどうしてこんな目に遭わせているか、だったよね?」

 やれやれ、と首を振った空也さんは、俺を軽蔑する視線を向けて、言い放った。


「僕が、紗季を愛しているからに決まっているだろ?」


 そして、空也さんは彷彿とした笑みを浮かべたまま話し続ける。