「……はぁ……はぁ……し、しんたろう、くん……」
境内を抜けて、人の気配が少なくなってしまったところで、紗季先輩が苦痛な声をあげる。
幸い、後ろを振り返っても空也さんの姿は見えない。もしかしたら、人混みのせいで上手く俺たちを追跡できていないのかもしれない。
「……先輩! こっちです!」
俺は、本来の道から外れて、木が生い茂る山道に入っていった。
辺りは暗く、これなら上手く身を隠すことができるかもしれないと、俺は先輩の手を引いて、さらに山道の奥へと進もうとした。
「……待っ……てく、れ。慎太郎……くん」
だが、ここで、俺はやっと紗季先輩の異変に気付く。
彼女は息も絶え絶えに、苦しそうに胸に手を抑えている。
そして、立っていることすら我慢できなくなってしまったのか、胸に手を抑えながら、その場にしゃがみこんでしまった。
「先輩! 先輩!!」
「だ、だいじょうぶ、だよ……」
先輩はそういうが、とてもじゃないが大丈夫そうには見えなかった。
そして、俺はこのときになってようやく、紗季先輩の手首に何かで縛られていたような跡が残っていることに気が付いた。
「先輩……その手首……!」
「きみが……気にするような……ことじゃ、ないよ……」
先輩はそう答えるが、俺には苦痛に耐えるように発したその言葉に、俺は胸が苦しくなってしまった。
「……おいおい。紗季が可哀想じゃないか、白石くん」
そして、すぐ後ろで声が聞こえて、俺は振り返る。
そこには、余裕のある笑みでこちらに近づいてくる空也さんの姿があった。