駄目だ。
空也さんに……こんな奴に、絶対に紗季先輩を渡しちゃいけないっ!
「――なっ!」
気が付けば、俺は紗季先輩へと手を伸ばす空也さんの手を、全力で払いのけていた。
「し、慎太郎くんっ……!」
「先輩っ!」
俺は、紗季先輩の手を掴み、走り出す。
紗季先輩は驚いた様子だったけど、ちゃんと俺と一緒に走り出してくれた。
「……待てっ!!」
そんな声と共に、後ろから空也さんが追いかけてくる気配を感じた。
俺は、すぐに境内へと戻って人混みをかき分けて前に進む。ぶつかった人たちは多種多様に苛立ちや戸惑いを露わにしていたが、そんなことを気にしている暇はない。
俺は絶対に紗季先輩の手を離さないように、しっかりと彼女の手を握っていた。
そして、境内を抜けたあとは、ただひたすら必死で、紗季先輩と一緒に走り続けた。