「えっ……?」
紗季先輩の顔が、一気に青ざめたものへと変わってしまう。
だが、俺はその反応を、この前に一度見たことがあった。
「見つけたよ、紗季」
そして、その人物……空也さんもまた、依然と同じ台詞を、紗季先輩に告げた。
「……どうして、兄さんがここに……?」
「白石くんが教えてくれたんだよ。さっきまで、僕と一緒に紗季を捜していたんだよ。ねえ、白石くん?」
空也さんは、余裕たっぷりの笑みを浮かべながら、俺にそんな確認をしてきた。
「慎太郎くん……どういう、ことだ?」
そう尋ねてくる紗季先輩の声には、焦りや不安のようなものが滲んでいた。
だが、俺はその理由に対して思い当たる節があったので、きちんと説明をしようとした。
「紗季先輩……空也さんは、本当に紗季先輩のことを心配してくれてるんです。それに、先輩の味方にもなってくれるって、そう言ってくれて……」
紗季先輩は、空也さんのことを誤解している。
この人は、自分たちの家族の背景にどんな事情があったにせよ、紗季先輩の兄として、妹を守ってくれる存在になると、そう言ってくれた人なのだ。
「……違う。違うんだよ、慎太郎くん! この人は……!」
そう紗季先輩が悲痛の声を上げた、瞬間だった。
「黙れ、紗季」
俺の背中が、ゾワッと得体の知れない悪寒が走った。
「紗季。全く、お前は僕に従っていればいいのに……部屋から逃げ出すなんて酷いじゃないか? あんなに可愛がってあげたのに、やっぱりこんな男に助けを求めていたんだね」
空也さんの表情は、もう俺の知っている彼の顔ではなかった。
まるで、快楽を楽しむ獣のような、悪意に満ちた視線を紗季先輩に向けている。
「白石くん。きみも協力してくれて助かったよ。でも、君の役目はもう終わりだ。さっさと帰りたまえ」
空也さんは、俺を邪魔者扱いするように睥睨する。
もう、俺の知っている空也さんは、どこにもいなかった。
「さあ、紗季。家へ帰ろうか? ただし、部屋を抜け出した罰は、帰ったらたっぷりとしてあげるから、覚悟しておけよ」
そして、空也さんが、紗季先輩に近づき、手を伸ばそうとした。