その間に、ようやく俺は(みどり)を置いてきてしまったことに気付いた。

 あいつなら、すぐに追い付くこともできそうだけど、もしかしたら俺が放り出した荷物を片付けてくれているうちに、見失ってしまったのかもしれない。

 ならば、今からでも翠に連絡して、一緒に紗季先輩を捜してもらうのも手だと考えた。

 だが、俺は結局、翠に連絡を入れることも、そのベンチに座って休むこともできなかった。


 彼女は、ポツンと一人、ベンチに座っていた。


 祭りの光が届かない、暗い場所にも関わらず、俺はその姿を見た瞬間、息が止まりそうになってしまった。

 そして、ベンチに座っていた彼女もまた、誰かが近づいてくる音で気付いたのが、俯いていた顔をそっと上げて、俺の姿を見た。

「あっ……」

 わずかに、彼女の口が震えているのが、声でわかった。

慎太郎(しんたろう)くん」

 そして、彼女はゆっくりと、俺の名前を呼んだあと、呟く。

「……きて、くれたんだね」

 にっこりと、微笑んだ彼女の表情は、今までに見たことがないくらい、とても綺麗だった。

「……紗季、先輩」

 俺も、彼女の名前を呼ぶ。

 そうすると、彼女はまた、嬉しそうにゆっくりとほほ笑むのだった。

 俺は、何を話せばいいのか分からず、黙って先輩のことを見つめることしかできなかった。

 今の先輩は白いワンピースにサンダルという、とてもシンプルな服装だった。

 きっと、浴衣の人たちが多い境内にいたならば、その異質さで目立ってすぐに見つけることができただろう。

「……紗季先輩。栞の内容、読みました」

 俺は荒くなる呼吸を整えて、彼女に伝えた。

「俺のこと……待ってくれていたんですね」

 五年もの年月を経て、俺はようやく、先輩を迎えに行くことができたのだ。

「……慎太郎くん。私は……」

 そして、紗季先輩が俺に近づこうとした――そのときだった。