「……はぁ、疲れた」

 俺は境内(けいだい)に並ぶ屋台の列から少し離れて、茂みの奥まった場所に設置されていた古いベンチに腰掛けていた。

 軽い気持ちで(みどり)に付き合ってはみたが、想像以上に体力を消費してしまった。

 これなら家で叔父さんたちとの気まずい宴会に参加していたほうが良かったかもしれない。

 おまけに、その翠とは逸れてしまって別行動になっている。

 一応、スマホにメッセージは送っておいたが、未だに返信はない。

 まあ、その内メッセージにも気付いて翠のほうから連絡が来るだろうと思って、俺は遭難者の鉄則を忠実に再現するが如く、座っているベンチから一歩も動かないことにした。

 唯一、今の状況で良かったことといえば、夜になったことで、あんなに蒸し暑かった気温も少しはマシになってきたことくらいだ。

 だが、人混みから離れても、祭りの喧騒とほのかな灯りが、暗闇を照らす。

 ここにいる人たちは、俺が先ほどまでその灯りの中に混ざっていたことなど、露ほども気にしていないだろう。