今日は、賀郭神社で夏祭りが開催される。遠くから太鼓の音もほんの少しだけ聞こえてきた。
「祭りかぁ。ねえ、あんたは行く予定とか……あるわけないか」
翠は、質問しようとしたところで勝手に話を完結させた。決めつけはよくないと思うのだが、残念ながら実際にそうなので反論する要素がどこにもなかった。
「あんた、昔は結構あたしと一緒に行ってたわよね? どう、これから行ってみない?」
翠は、にやりとした笑みを浮かべながら、俺にそのような質問を投げかける。
「……いや、やめとく」
「えぇー、なんでよ! こんなに可愛い子と祭りに行けるなんて、男なら嬉しいもんでしょ!」
ブーブーと文句を言う翠に対して、俺はやれやれと首を振りつつ答える。
「翠と一緒に行ったら、すぐに財布の中身がなくなるんだよ」
「財布? 一体なんのことよ?」
「……未来の話」
「なにそれ?」
まぁ、今の翠に話してもわからないだろう。大学生になった俺が、翠と一緒に夏祭り行ったなんて話は、今から五年後に起こる出来事だ。
そして、俺はそのあとに、五年前の世界へとやって来たのだ。
「まぁ、なんでもいいけどさ……」
だが、翠は俺の話なんて全然興味なさそうに、本当に、自然な口調で、俺に告げた。
「あんたが行きたい相手なんて、黒崎先輩くらいか」