「親たちの関係がどうだろうが、紗季が僕の大切な妹であることに変わりはないだろ?」
「……えっ?」
それは、俺が想像していなかった言葉だった。
そして、空也さんは淡々と話し続ける。
「初めて紗季を見たときにね、直感したんだよ。僕は、この子を守らないといけない、ってね。でも、悲しいことに紗季はまだ僕のことを母さん寄りの人間だと思っているのさ。兄として、もう少し信頼を寄せて欲しいんだけど、これがまた難しくてね」
「じゃあ、空也さんは……」
「もちろん、僕は紗季の味方だよ。だから、きみと話がしたかったんだよ。紗季が今、最も信頼を寄せている、きみとね」
車は住宅街を抜け、車幅の広い道路を走っていて、少しずつ日が傾き始めたからなのか、空也さんは目に掛けていたサングラスを取ってしまった。そのおかげで、空也さんの表情がよく見えるようになった。
彼は、とても穏やかな顔をしていて、その雰囲気はどこか紗季先輩に似ているものがあった。
「白石慎太郎くん。僕からもお願いするよ。きみが、これからも紗季の心の支えになってくれ。きっと、それは僕にはできないことだ」
空也さんのハンドルを握る手に、少し力が入ったような気がした。
紗季先輩の心の支えになること。
それが、俺のやるべき役目なのだとしたら。
「……はい。俺も……空也さんと同じ気持ちですから」
俺なんかが、どこまでその役割を担えるのかは分からないけれど、それでも俺は、紗季先輩の隣で、一緒に過ごしたいのだ。
いつの日か、あの人が心の底から、笑顔で過ごせる居場所をみつけるまで。
「ありがとう。妹も……きっと喜ぶよ」
そう言った空也さんは、満足したように笑みを浮かべたのだった。