そんなことをぼんやりと考えていたからなのか、目的の神社には、すぐに到着してしまった。
「おっ、やってるやってる! まだあんまり混んでないからちょうどいいや」
しかし、そんな俺の心情など露知らず、いつの間にか機嫌が元に戻っていた翠は俺の手を引っ張って小走りする。
そして、最初の屋台の列が見えたところで、翠は俺のほうへと振り返った。
「よ~し、慎太郎。ちゃんとお金の用意しといてよね」
宣言通り、どうやら俺は、一晩翠の財布として機能しなくてはならないらしい。
幸か不幸か、帰省する前にバイト代が振り込まれていたので、それなりに潤沢な資金を持っているが、俺に何の得もない投資をこれから始めなければいけないのかと思うと、気持ちが沈んでしまうものだ。
だから、俺は余計なことを考えてしまった。
もし、俺の隣にいるのが翠じゃなくて、あの人だったら。
俺たちは、どんなことを話していたのだろうか、と。
「おじさ~ん、かき氷、二つね! あっ、慎太郎! あたしもあんたのやつ食べたいから、違う味選びなさいよ」
そんな注文をつけられながら、俺は渋々と自分の財布から二人分の料金を支払うのだった。