「紗季は、父さんの幼なじみの女性との間に出来た子どもなんだ。ただ、父さんもその人が亡くなるまでは、紗季の存在を知らなかったらしい。まあ、父さんと母さんは恋愛結婚じゃなくて、ほとんど親たちが決めた結婚だったみたいだから、色々あったんだろうね」

 まるで他人事のように話す空也さんは、ワイドショーで流れるニュース原稿を読み上げるような、そんな気軽さで自分たちの出生について語る。

「で、父さんは母さんと結婚してから、その女性……まぁ、紗季の本当の母親なんだけど、その人も父さんの前から姿を消したそうなんだ。まあ紗季を身ごもってしまったから、父さんに迷惑をかけないようにしたんだろうね。もしくは、あなたの助けなんて必要ないっていう意思表示だったのかも」

 そう言い終えると、丁度信号が青に変わったので、空也さんはアクセルを踏んで車を発進させる。

 気が付けば、もう俺の知っている町の風景ではなく、知らない場所に迷い込んでしまったような感覚を味わっていた。

「でも、その女性が死んだことを、どこかから聞いた父さんが紗季を引き取ることになってね」

「そんな……」

 そんな身勝手なことに、紗季先輩は巻き込まれたっていうのだろうか?

「もちろん。母さんがいい顔をするわけなかったけど、それでも父さんは引き取ると言って聞かなかった。表向きは、知り合いの子供を引き取ったってことになっているけれど、父さんも責任は感じてしまったんだろうね。いわゆる贖罪というやつなのか、それともやっぱり愛してた女性の子供だったから見捨てることができなかったのか……ま、僕は後者だと思うけどね」

「……どうして」

 俺は、耐え切れなくなって、空也さんを問いただした。

「……どうして、そんな平気な顔で喋れるんですか? そのせいで……紗季先輩は……!」

「僕には関係ないからさ」

 俺は、その言葉を聞いた瞬間、思わず空也さんを睨んでしまった。

 だが、それでも空也さんは冷静な口調のまま、俺に言った。