車の中は、蒸し暑い外とは違って冷房が効いていて快適な空間になっていた。

 そして、空也さんは頭にかけていたサングラスを下ろし、車を発進させる。

「昨日といい今日といい、紗季がきみに迷惑をかけて悪かったね」

「いえ、別に俺は……迷惑だなんて思っていません」

 見慣れた景色が流れていく中、俺は自分の本心を告げた。

 先輩のことで、何か迷惑をかけられた覚えは俺にはない。

 ただ、少し棘のある返事をしてしまった気がしたので、俺は話を変えようとお兄さんにある質問を投げかける。

「あの……空也(くうや)さん……って呼べばいいですか?」

「ああ、好きに呼んでくれて構わないよ。それで、他に何か言いたそうだけど?」

 空也さんは、すぐに今のが本題ではないと気づいたようだ。

 なので、俺は単刀直入に聞いてみることにした。

「どうして、俺とドライブなんてしようと思ったんですか?」

「あー、まあ、そこは気になるよね」

 すると、空也さんは人差し指でハンドルをコンコンと叩きながら答える。

「んー、そうだね。きみと親しくなりたかったから、ってだけじゃ駄目かな?」

「……そうですね。あまり、答えになっていないと思います」

 すると、明るい口調で話していた空也さんの空気が少し変化し、真剣な様子で俺に尋ねる。

「ねえ、白石くん。正直に答えてほしいんだか、きみは紗季と僕たちの関係のことを、どれくらい知っているのかな?」

 サングラスで表情はよく見えなかったが、その質問が先ほどまでとは違う趣向であることが、俺にも伝わってきた。

「紗季先輩からは……本当の母親が亡くなっていることを聞きました」

 それも、俺は今日知ったばかりのことで、元の世界ではそのことすら、俺は聞かされていなかった。

「そうか……じゃあ、母さんや僕が、紗季にとっては本当の家族じゃないっていうことも、すでに知っているんだね」

 空也さんと紗季先輩との関係性については、紗季先輩からは直接話されたことではなかったけれど、推測すればおおよその検討はついていた。

 だが、次に空也さんが話した内容は、俺に衝撃を与えるのには十分な内容だった。

「まあ、正確には、僕と紗季はちゃんと血が繋がっている兄妹なんだけどね。母親が違うってだけでさ」

「……えっ?」

「ああ、その反応を見ると、これは知らないことだったか。まあ、いいけどね。知らない場合は、最初から全部話すつもりだったし」

 前の信号が赤になったので車を停車させると、空也さんはなんて事のないような口調で、話を続ける。