そして、俺は一人で紗季(さき)先輩の家へと再び向かおうとしたとき、学校の前に見覚えのない黒い車が一台止まっていることに気付く。

「……あっ」

 思わず声を出してしまった俺に対して、その人物は軽く手をあげる。

「やあ、昨日振りだね。白石くん」

 その男性、黒崎空也さんは笑顔のまま、そう俺に挨拶をした。

 昨日とは少しデザインが違う白シャツに、ジーンズ姿。そして、頭にサングラスを乗せていた。

「お兄さん……どうしたんですか?」

 偶然……ではないだろう。どう考えても、明らかに俺を待っていたとしか思えないその態度に、案の定、お兄さんは俺に告げる。

「ちょっときみと話がしたくてね。どうだい、今から少し僕とドライブにでもいかないか?」

「ドライブ……ですか?」

「そう。紗季のことで、ちょっとね」

 咄嗟のことで顔に出てしまったのだろう。紗季先輩の名前で反応してしまった俺を見て、お兄さんは笑みを浮かべた。

「……知らない人を乗せると怒られるんじゃなかったでしたっけ?」

「ははっ、そんなこと、よく覚えていたね。でも、大丈夫だよ。あれは単なる口実さ。昨日は紗季と二人っきりになって、きみのことについて聞きたかったからね」

 呆気らかんとそう言った空也さんは「どうするの?」と言わんばかりに、俺を見てくる。

「……わかりました。でも、自転車を置いてくるので少し待っててくれませんか?」

「ああ、もちろんだとも」

 こうして、俺は空也さんからの誘いを承諾して、一度学校の駐輪所に戻って、自転車を置いていく。

 そして、校門の前まで戻ってくると、律儀に車の外で待っていたお兄さんに促されて、俺は助手席に腰を下ろした。